皆さん、こんにちは。仙台で個人タクシーのハンドルを握って、気がつけば*33年になります(法人10年、個人23年)この仕事は天職だと思っていますが、長く続けていく中で、身体との付き合い方について本当に色々なことを学んできました。今回は、私の経験談と、そこから導き出した「タクシー運転手ならではの健康管理術」について、シェアしたいと思います。
「売上を伸ばすコツは、まず自分の体調を“乗せる”こと」 – 昔の私と、青ざめたあの日
個人タクシーを始めたばかりの頃は、がむしゃらでした。少しでも売上を伸ばそうと、夕方5時に家を出て、深夜2時に帰宅する生活。食事は車内でコンビニおにぎりと缶コーヒーで済ませ、休憩と言えば、エンジンをかけたままスマホをいじるだけ。そんな生活を3ヶ月も続けたでしょうか。身体は正直なもので、倦怠感、腰痛、そして血圧の急上昇と、次々に悲鳴を上げ始めました。メーターは回っても、心は全く晴れませんでしたね。
そんなある晩、信号待ちで一瞬まぶたが落ち、ハッと目を覚ましました。冷や汗がドッと流れ出たあの瞬間、「これはマズい」と本気で思ったのです。あのまま漫然と運転を続けていたら、もしかしたら大きな事故を起こしていたかもしれません。お客様の命も、そして自分の人生も、一瞬で奪われる可能性があった。そう考えると、本当にゾッとしました。
“走る前に整える”:私の出庫前ルーティン
あのヒヤリ体験以来、私はあるマイルールを決めました。それは**“走る前に整える”**ということです。出庫前に必ず行うこの3ステップのルーティンが、私のタクシードライバーとしての生活を劇的に変えてくれました。
1. 1分間の深呼吸
まずは、目を閉じて1分間の深呼吸です。腹式呼吸でゆっくりと息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。これだけで心拍数が落ち着き、頭がスッキリとクリアになるのを感じます。出庫前の慌ただしさから解放され、集中力を高めるための準備運動といったところでしょうか。
2. 股関節と肩甲骨のストレッチ(各30秒)
次に、股関節と肩甲骨のストレッチをそれぞれ30秒ずつ行います。このストレッチを始めてから、ハンドル操作やペダルワークが驚くほど軽くなりました。長時間同じ姿勢で運転していると、腰への負担は相当なものです。しかし、このストレッチをすることで、身体の可動域が広がり、腰への負担が激減するのを実感しています。
このルーティンを始めてからというもの、運転中の集中力が途切れにくくなり、お客様とのコミュニケーションも格段にスムーズになりました。何より、自分自身がハンドルを握るのが楽しくなったんです。たった数分の準備ですが、その効果は計り知れません。
私流・週1回の山歩きで健康維持の「コツ」
日々のルーティンに加えて、私の健康維持の「コツ」となっているのが、週に1回の山歩きです。私の公休日は可能な限り、仙台近郊の山へ出かけます。目標とするのは、標高差500〜700mの山を歩くこと。これは、一般的な目安(登り300m/h・下り400m/h)よりもやや速いペースですが、運動強度を中強度(心拍120-140bpm)に収めることで、安全域を超えないように管理しています。
(ザックの重さと気温や天候など、条件は毎回違ってきます)
このルーティンを設計する上で参考にしているのが、運動生理学者・山本正嘉教授の著書**『登山と身体の科学 ─ 運動生理学から見た合理的な登山術』**(講談社ブルーバックス、2024)です。この本には、私が実践している運動の「科学的根拠」が詰まっています。
具体的には、
- 心拍数=〔180 - 年齢〕×0.7を上限に歩く
- 30分ごとに5分小休止+糖質5-10g補給
が推奨されています。私はスマートウォッチで心拍数を常にモニターし、休憩地点は事前にGPXデータにマーキングしています。これだけで、長時間歩いても「バテ知らず」になりました。身体の芯からリフレッシュでき、次の週の仕事に活力が湧いてくるのを感じます。
私は地元のハイキングサークルに入れていただいて、毎月実施する月例登山にも参加していますが、ここではベテランの先輩たちから山に関する多くのことを学んでいます。
週一のソロ登山は私自身の健康管理をする場所として割り切って実行しています。
注意しなければならない点は、山の事故です。登山やハイキングにおける死亡事故は他のどのスポーツよりも死亡者が多いのです。
健康管理が仕事に直結する3つの理由:運転席は公共空間
ハンドルを握っている間、私たちドライバーの身には3トンを超える鉄の塊と、数名のお客様の命がゆだねられています。この重い責任を常に自覚しなければなりません。昔の私は、「自分ひとりが倒れても車は止まるさ」と甘く考えていました。しかし、国土交通省のデータで健康起因事故を起こした運転者の約3割が心臓・脳血管系の疾患と知り、背筋が凍りました。中には運転中に発症して、自車だけでなく相手の車も大破させた例が少なくないという事実を知り、改めて健康管理の重要性を痛感したのです。
健康管理は、単なる自己責任ではありません。タクシーの運転席は公共空間であり、お客様の命をお預かりする場所です。だからこそ、身体を壊すことは**「社会的リスク」**であると自覚しなければなりません。私は毎日、出庫前に自分の体調を細かくチェックするようになりました。
健康管理が仕事に直結する理由は、大きく分けて以下の3つです。
1. 安全運転の持続時間が伸びる
きちんと休憩を取り、十分な睡眠を確保するだけで、運転中の判断ミスや急ブレーキの回数が目に見えて減ります。集中力が維持できるので、危険を早期に察知し、未然に防ぐことができるのです。これは、事故防止に直結します。
2. 売上が安定する
体調不良で仕事を休むことが少なくなるため、当然ながら売上が安定します。無理をして体調を崩し、結局長期休暇を取る羽目になるよりも、日頃から健康に気を配り、コンスタントに働く方が、結果的に営収アップにつながるのです。
3. お客様とのコミュニケーションが円滑に
身体が軽く、心身ともに充実していると、自然と声が明るく、大きくなります。お客様との会話も弾み、気持ちの良いサービスを提供できるようになります。お客様に笑顔で「ありがとう」と言っていただけると、この仕事の喜びを改めて感じますね。健康であること自体が、最高の接客サービスでもあるのです。
タクシー運転手の「職業病」と、私のリアルな体験談
個人タクシーを始めて、私は「ドライバーの三種の神器」と言われる腰痛、目の疲れ、そしてメタボをフルコンボで味わいました。ここでは、私が実際に感じたリアルな感覚と、様々なデータを交えながら、「タクシーならでは」の職業病について少し整理してみたいと思います。
慢性腰痛・坐骨神経痛 ―― 発症率は約5割
タクシー運転手の約半数が経験すると言われているのが、慢性的な腰痛や坐骨神経痛です。長時間同じ姿勢でアクセルやブレーキを踏み続けると、腰椎に大きな圧力がかかり、それが坐骨神経を刺激します。
私の場合、軽度の脊柱管狭窄症と診断されています。運動不足になると、右脚の脇あたり全体に静電気が走るような、あの嫌な違和感を感じるんですよ。
この腰痛を軽減するためにも、先ほどご紹介した出庫前のストレッチや、週1回の山歩きが非常に効果的だと実感しています。身体を動かすことで血行が良くなり、筋肉の凝りがほぐれる感覚です。
最後に:「走る前に整える」は、最高の事故防止策であり、最高の接客サービス
「走る前に整える」――このシンプルな心がけが、私のタクシードライバー人生を大きく変えてくれました。健康管理は、単に自分のためだけでなく、お客様のため、そして社会全体の安全のためにも不可欠なことだと、33年の経験を通して強く感じています。
これからも、仙台の街を安全に、そしてお客様に快適にご利用いただけるよう、私自身も健康に気をつけながらハンドルを握り続けていきたいと思います。