〜5月のある爽やかな午後に〜
五月晴れとは、よく言ったもんです。
空はどこまでも高く、雲ひとつない青空に、風はカラッとさわやか。タクシー稼業の合間をぬって、久しぶりにオフの日。こんな日は、車でちょっと出かけたくなるものです。
この日の任務は、我が家の癒し担当——愛犬しろのシャンプー。
行き先は、いつものトリマーさんのところ。距離にして約4キロ。鼻歌まじりで車を出したのが運のツキ……いや、結果的には何も起きなかったんです。
カーブに潜むワナ、バイクは突然に
道中、ちょっと気になるカーブがあります。たいした急カーブじゃないけれど、ちょいと狭くなってる。しかも、そのカーブの手前、対向車線側は長〜い下りの直線。見通しがいいもんで、「この先もまっすぐやろ」なんて油断しがち。
その場所に差し掛かったとき、事件(未遂)は起きました。
正面からヒュッと現れたのは、小さなスクーター。これがまぁ、思いっきりこちらの車線に半分くらい、顔を出してくるじゃありませんか。
「おいおいおいおいおいっ!」と心の中で5回くらい叫びつつ、急ブレーキを踏みつつ、左にぎりぎりまでハンドルを切る私。
正直、後ろの車のことなんて、考える余裕ありませんでした。あの瞬間、脳内にはしろの無垢な顔と、「まだシャンプーしてないのに…」という謎の焦りだけ。
結果として、バイクはギリギリでこちらに当たらずにそのまま曲がって行き、私も、後続の白い普通車も、事なきを得ました。
全員無傷。しろはキョトンとしながら後部座席でお座りを続けていました。
冷や汗と「もしも」の世界
数分後。手のひらに汗びっしょり。車内に流れていたお気に入りの昭和歌謡も、どこか遠くに聞こえます。
これ、ほんの一瞬、1秒にも満たないタイミングでずれてたら……と思うとゾッとします。
推察するに、あのスクーターの兄ちゃん(勝手に30代前半と見た)、長い下り坂で気分がアゲアゲだったんでしょうな。
ツーリングってのは、風を切ってこそナンボ。ましてや五月晴れ。気持ちが良すぎて、カーブの存在を完全に失念していたに違いない。
でもね、バイクってやつは、一瞬の判断ミスが命取り。
しかも、相手が車だったら……もう、運だけじゃ済まない世界です。
タクシードライバーの実話「逆走は突然に」
そういう私は、職業柄、交通事故の話には事欠きません。
実は、私の同僚の個人タクシードライバーが、しばらく前に恐ろしい目に遭いました。
深夜2時過ぎ、仕事帰りに仙台西道路のトンネルを西進中。前方に見えたのは、なんと「逆走してくる車」。
「え? こっちは進行方向合ってるよな?」と一瞬パニックに。
結果的に、正面衝突。タクシーは大破し、同僚は骨折含む大けが。
もしそれが乗客を乗せていた営業中だったら……と考えると、背筋が凍ります。
防衛運転こそプロの技術
私たちドライバーにとって、単に「交通ルールを守る」だけじゃ足りません。
いわゆる「安全運転」だけでなく、「防衛運転」が必要なんです。
つまり、「相手がやらかすかもしれない運転を想定しておく」。
自分は青信号でも、「もしかしたら信号無視の車が突っ込んでくるかもしれない」くらいの気持ちで運転してちょうどいい。
今回のスクーターの件も、反射的にブレーキとハンドル回避ができたのは、職業柄、そういう訓練(というか、経験)が身についていたから。
といっても、「やばい!ぶつかる!愛犬のシャンプーが!」という一心も、相当効いた気がしますが(笑)。
安全第一、命あっての洗車とシャンプー
しろは無事にシャンプーを済ませ、ふわっふわの状態で帰宅。
人間は汗だくだけど、なんとなく「今日という日を無事に終えられたこと」に感謝した午後でした。
皆さんも、五月晴れの日はつい気分が大きくなりますが、くれぐれも安全運転を。
特にバイクや自転車は、「自分が主役」だと思ったら負けです。道路は全員が共演者。
舞台(道路)を降りたくなければ、お互い気をつけましょう。