深夜のあたり屋と私:国分町から北警察署までのスリリング10分間
【1】深夜の勾当台通り、ノリノリで走ってたら…
時間は午前1時を少し回った頃。国分町のタクシー乗り場から北進して、泉中央方面を目指す。
車内には男二人の乗客。ご機嫌で景気の話などしていた。
「最近、売り上げが…」
「岸田さんがなぁ…」
と、完全に世直し評論会。だが、それもそのはず、タクシーの車内は時にサロンになる。
外はというと、霧のような雨がしとしと、でもまあ上がりかけ。
路面は濡れてるし、ライトも反射して視界がイマイチ。
「ちょっと見えにくいな…」と思いながら、制限速度? まあ、そこは…流れに任せていた。
(仙台の深夜、2車線直線道路、流れが速いのはもはや文化)
そして、北七番町を過ぎた辺りで――
【2】「あ、危ない!!」と叫んだその瞬間
右側から突然、何かが…いや、人影が飛び出してきた。
「あ、危ない!!」
反射的にハンドルを左に切る。ガツン!!という鈍い音が響いた。
同時に車が少し蛇行。ハンドルを戻して体勢を立て直す。
「いまの、何?」
心臓バクバクのまま、バックミラーを見る。…が、ミラーが変な方向を向いている。
すぐに路肩に車を止め、外に出て確認すると、車道の中央に誰かが立っている。
「頼む、無事でいてくれ…」
祈るような気持ちで近づくと、そこには酔っぱらった様子の若い女性。
そして、その女性はなぜか怒っている。
【3】「大丈夫ですか?」と聞いたら怒られた件
「大丈夫ですか?」と声をかける私。
「大丈夫じゃないわよ!」と返す女性。
なんと、ショルダーバッグがミラーに当たっていたらしい。
ぱっと見、ケガはなさそう。だが念には念を入れて、こう伝える。
「警察に電話しますね」
すると、急に態度が豹変。
「はぁ!?警察?なんでよ!無駄じゃない!このバッグさえ弁償してくれればいいのよ!」
…おや?
「いえ、後で体の痛みが出ることもありますし、事故報告の義務もありますから」
真面目に答える私。
「だーかーらー!時間の無駄って言ってんのよ!!」とヒートアップする女性。
明らかに何か変だ。
【4】拒否し続ける女と、勇気ある乗客
「それでも事故処理は必要です。すぐ近くに警察署もありますし、一緒に行きましょう」
私の言葉にも耳を貸さず、「行かない!行かないってば!」と叫ぶ女性。
その時、後部座席の乗客が口を開いた。
「私も目撃者ですから、一緒に警察に行きますよ」
この一言が、事態を動かした。
「逃げようとしたでしょう!?止まらなかったじゃないのよ!」と怒鳴りながらも、女性の足がようやく警察署の方向に向く。
「車止めようとしました。でも、雨で暗くて、しかもあなた、横断歩道じゃないところから飛び出してきたんです」と、私は冷静に反論。
【5】北警察署、まさかの「事故じゃない」判定
北警察署までは10分ほど。受付に着き、事情を話すと小さな部屋へ通された。
「少しお待ちください」と言われ、沈黙の時間。
やがて、交通課の警察官が登場。
「最初から教えてくださいね」
私と乗客は一人の警察官から、女性は別の警察官から事情を聞かれる。
こちらは淡々と話すが、女性は終始怒りモード。
「あの男がぶつかったのよ!」
「ちゃんと止まってないのよ!」
と言いたい放題。
…と、そこで突然警察官が言った。
「うーん…交通事故はなかったということで、運転手さんたちはこのまま帰っていいです。あとはこちらで処理しますから」
えっ??
「は? 事故はなかったって…?」
私も乗客も思わず顔を見合わせた。
「玄関まで送りますからついてきて下さい」と我々を促す警察官。
部屋を出て歩きながら私が「いや、でもぶつかった音も…交通事故はなかったとは?」と困惑していると、警察官が一言。
「いやー、これ“あたり屋”のようです。以前も同じことがあったんですよ」
【6】あたり屋再び
なんと、この女性、以前も似たようなケースで問題を起こしていたという。
その手口はこうだ。
- 夜中にフラフラ歩いて車道に飛び出す
- わざとミラーにぶつかる
- ケガをしてないのに「バッグ壊れた!弁償しろ!」と迫る
- 警察を嫌がる
「いやー、あたり屋って昔の話かと思ってたけど、まだいるんですね…」と乗客の一人。
「こんな時代にアナログな詐欺だよね」ともう一人。
私はといえば、心の底からこう思った。
「保険の等級が下がらなくてよかった…!」
【7】その後と教訓
あたりや女性と別れ、泉中央まで無事に送り届けた後、あらためて思う。
事故って、車側に過失がなくても、「一見それっぽく」見えると面倒なことになる。
今回は乗客が目撃者になってくれたのが本当に助かった。
というわけで、皆さんも夜間運転、特に繁華街近くでは**「飛び出し注意」ならぬ、「あたりや注意」**をお忘れなく。
特にバックミラーの位置が変になった時は、たいてい何かが起きてます。マジで。