春山の絶景とスキー登山の一日
2024年4月29日、春の陽気に誘われて、東北の名峰・鳥海山へスキー登山に出かけた。この日は奇跡的とも言える快晴無風、気温18度という理想的なコンディション。年に数えるほどしかないという天候に、胸の高鳴りを抑えきれないまま早朝4時に仙台を出発した。
参加者は、朋友会の会員5名と、みやぎトレッキングクラブの私と赤間さんの計7名。薄明かりのなか、山形県に入る頃には最上川沿いの景色が明るくなり始め、希望に満ちた一日の始まりを感じさせてくれた。
祓川登山口へ——賑わいを見せる登山者たち
午前7時、祓川入口の駐車場に到着。すでに一段目の駐車場は満車に近く、かろうじて空きを見つけて車を滑り込ませる。連休中ということもあり、登山口にはスノーシュー、アイゼン、そしてスノーボードやスキーを装備した登山者たちが続々と集まっていた。登山届けをポストに投函し、いよいよ出発。
標高差は約1050メートル。スキーにシール(登り専用の滑り止め)を装着する際、金具の調整で手間取ってしまうという小トラブルもあったが、幸い朋友会のメンバーに同じ器具を使っている人がいて、教えてもらい難を逃れた。
雪は春特有のザラメ雪。日差しを受けてややシャーベット状になっており、滑走には適しているが、登りにはやや脚にくる。最初こそ順調だったものの、次第に体が重く感じられ、仲間からどんどん遅れていく。赤間さんは時折振り返っては待ってくれたが、300メートルほどの差がついてしまうこともあった。
「自分を置いて先に行ってください」と伝えると、「いや、俺も疲れて休んでるんだよ」と笑いながら答える赤間さん。そんな一言に救われる。


七高山へ——絶景が迎える山頂のひととき
苦労しつつも、ついに標高2229メートルの七高山(しちこうさん)へ。最後の登り10メートルで左足が攣ってしまい、スキーを外して担いでの到達となった。仲間からは15分ほど遅れての山頂到着だったが、その景色はすべての疲れを忘れさせてくれる。
空は抜けるような青空。わずかに霞んではいたが、月山、岩手山をはじめとする東北の名峰が一望できる。遮るもののない稜線から、どこまでも広がる山々の姿には言葉を失う。まさに「景色をおかずに昼食」という表現がぴったりの、贅沢なコーヒータイム。隣り合わせたスノーボーダーや登山者との会話も弾み、山で出会う一期一会の喜びをかみしめる。



スキー滑降——春の雪と悪戦苦闘
昼食と絶景を堪能した後は、本日のハイライト、スキーでの滑降である。シールを外し、斜面に向かう。ここは足前(すべりの腕前)を見せる場面だと意気込んだものの、現実は甘くない。想像以上に斜面が大きく、急だった。
滑っては止まり、滑っては止まりの繰り返し。なんとか中腹まで降りてきたが、今度はスキー板が異様に滑らなくなってきた。滑走面を見ると、なんと黒い油のような「すす」がベッタリと付着しているではないか。春山では雪面に浮遊していた汚れが雪解けとともに表出することがあるが、ここまで影響するとは予想外だった。



タオルで拭き取ろうとするも、まったく落ちない。後で調べると、石油系のクリーナーやシンナーでしか落ちないとのこと。仕方なく、滑らないスキーに無理やり乗って、ズルズルと登山口へ戻る羽目になった。
山を滑るということ——自然の厳しさと美しさ
こうして一日が終わりを迎えた。鳥海山という名峰のスケールと、春山ならではの気象条件、雪質、そして予想外のハプニングに翻弄されながらも、心には確かな充実感が残った。
登るという行為、滑るという体験、そして頂で出会う人々や風景。それらすべてが「登山」という一語では語りきれない豊かさを持っている。
次に鳥海山を訪れるときは、しっかりとスキーの滑走面を整備して臨もう。そう心に誓いながら、帰路についた。


