遥かな峰へと続く道程
遥かな峰へと続く道程には、いつも胸の奥がくすぐられる期待感がある。今回は三人の仲間とともに、西穂高岳への挑戦を決めた。費用を抑えるため、私の愛車で仙台を早朝に出発。東北道を南へ、郡山を経て新潟、さらに北陸道をたどり、富山から岐阜へと抜けるルートは、およそ520キロ、ナビでは7時間20分。深夜の静寂を突き破るエンジン音が、心をくすぐる。
午前3時半、サービスエリアで合流した三人は、まだ眠気漂う高速道路に身を委ねる。見渡す限りの漆黒の空に星の瞬きが鮮やかで、やがて夜明けとともに山々が輪郭を現すと、心は一瞬で山の世界へと飛び込む。登山口近くの市営第2駐車場に車を置き、足取りも軽く小屋へ向かう道すがら、冷気が頬を刺すようだ。
一日目の幕営地は西穂山荘のテント場。料金は一人2,000円だが、その価値は山の息吹を肌で感じられる静寂にある。夕暮れのテントサイトには、NHKラジオ「やまカフェ」のパーソナリティ石丸謙二郎さんが支配人・粟沢氏と談笑中の姿がある。声をかければ気さくに応じてくださり、ツーショットの一枚が思い出に刻まれる。


夜明け前の3時、ヘッドランプの光だけを頼りにバーナーで湯を沸かし、フリーズドライの温かな朝食を味わう。4時、冷たい空気の中で一歩を踏み出すと、予報どおり6時過ぎに前穂高から奥穂高へと連なる稜線が滝雲に包まれ始めた。西穂独標を越えてチャンピオンピークに立つと、その圧倒的な迫力に息を呑む。しかし、頂への最後のわずかな距離を前に、体力と技量を総合的に判断し、安全な撤退を選択。来た道を辿り戻る決断は、山を愛する者の理性の証だ。
下山後、三人で味わう西穂山荘の醤油ラーメンは格別だった。重ねた笑顔と会話が、登れなかった悔しさをも甘美な思い出へと変えてくれる。仙台の我が家に着いたのは夜9時30分。風呂の湯気に包まれながら、次に待ち受ける山旅へと想いを馳せた。

