仙台大観音・人気の不思議

観光

雨粒ワイパー越しに現れた“白衣の巨人”

仙台駅のタクシー乗り場を出て、フロントガラスに小雨がリズムを刻み始めたころ。緩やかな丘を登り、中山の東北電力研究所を右折、さらに左折した瞬間――ワイパーの往復の合間から、真っ白な“壁”がドーンと現れる。影というより“質量”。高さ100メートル、18階建てのビルを軽く飲み込む「中山大観音」だ。

地元の常連さんを乗せていると、「どこからでも見えるのに生活感ゼロ」「夜になるとラスボス感がすごい」と散々な言われよう。しかしこの日、後部座席にいたのは東京から来たという若いカップル。タイからの留学生という。「キャー!アニメみたい!」と歓声を上げながら、スマホを連射。雨音に混じるシャッター音がやけにテンション高めで、車内は甘いマンゴーの香りと興奮で満ちていた。

「実はね、ちょっと前まで世界一大きかったんですよ」と私が話すと、「マジカ!」と即答。仙台弁も英語もごちゃ混ぜの即席観光ガイド――これが個人タクシーのリアルな日常である。


中山大観音とは?

「白衣の巨人」として車窓に圧を放つこの像、正式には**仙台大観音(せんだいだいかんのん)**という。建立は1991年、仙台市制100周年の記念として、バブルの余韻が色濃く残る時代に登場した。

高さ100メートルは、奈良の大仏の約5倍。18階建ての県庁舎よりも10メートル高く、観音像としては国内最大、仏像全体でも牛久大仏(茨城・120m)に次ぐ2位のスケールだ。

外装は白亜のFRP(繊維強化プラスチック)製。遠目には“雲をまとう女神”、真下から見上げると“首のストレッチを強要する天罰装置”にも見える。胎内は12層構造で、らせん階段を昇るごとに煩悩が1つずつ消える(かもしれない)設計。フロアごとに十二神将と108体の仏像が鎮座し、最上階からは太平洋と蔵王連峰を一望できる。

ちなみに創建者は、泉区のニュータウンを手がけた地元の実業家・故 菅原萬(すがわら よろず)氏。「5万人の街をつくった男」として知られる。


でかすぎて不気味!? 地元住民がそっぽを向いたワケ

観光客が「マーベラス!」と興奮する一方で、地元の人々にとって中山大観音は複雑な存在だった。完成間際の1990年頃、住宅街の真ん中に突如として現れた巨大像に、テレビ電波の乱れや日照の遮断、ライトアップによる睡眠妨害などの“3K(恐い・眩しい)問題”が噴出し、反対署名も回ったという。

当時は「子どもが夜泣きした」「方向感覚が狂う」「飛行機のパイロットが戸惑う」など、エピソードは怪談のよう。地元紙には「景観破壊」「バブルの置き土産」といった見出しも並んだ。

それから30年。観音像は屹立し続け、SNS時代に突入した今、“仙台のラスボス”として逆転ヒーローに。でも、地元に根を張ってきた人々にとっては、「今さら?」というツンデレ感も、少しだけ残っている。


逆転人気の立役者:映画とインフルエンサー

タクシーのバックミラーに映る白い掌――その構図が、2018年のタイ映画『Gravity of Love』のワンシーンにあるらしい。私は観ていないが、乗客からそう聞いた。物語の中で主人公たちが“運命の再会”を誓った場所が、この中山大観音だったという。

この映画をきっかけに、観音像を一目見ようと訪れる観光客が急増。「ここでプロポーズしたい」と航空券をポチる人まで現れたという。

さらにSNSでは“#仙台のラスボス”タグが乱立。雨粒がレンズについた写真はCGのように映えると話題になり、フォロワー50万人超の旅系アカウントがシェアした動画は再生数100万回を突破した。

今年5月には、仙台出身の鈴木竜也監督が手がけたアニメ映画『無名の人生』にも観音像が登場。紫色の夕日を背負うその姿に観客は“エモ死”し、現地を訪れたファンは「リアルの方がSF」と驚きの声を上げていた。

※宮城県の仙台市、塩釜市、松島町、白石市、川崎町、丸森町などでロケが行われたタイ映画「Gravity of Love (グラビティ・オブ・ラブ ラックテー…フェーレーンドゥンドゥード)」—-ロマンティックコメディー作品—は、2018年11月18日よりタイで劇場公開となりました。


タクシードライバー的ベストルート

JR仙台駅西口から中山大観音までは、距離約12km、所要25〜30分。渋滞がなければ、勾当台通りから三条町を抜け、中山ドライブスクールの裏手を通るのが王道ルートだ。北山トンネル経由は一般ドライバーにもおすすめ。

運賃はだいたい3,000円前後(深夜は+20%)。ちなみに観音様のご利益で割引は……ない。

八乙女駅からタクシー活用
地下鉄南北線で八乙女駅まで行き、そこからタクシー(約2,500円)。渋滞回避&コスパ重視の裏技ルート。(アプリ配車を活用しましょう!)

雨の日フォトは“車窓スタビライザー”
小雨の車窓は自然のフィルター。ワイパーを間欠にして撮れば、“白衣×雨粒ボケ=CG感MAX”の写真が狙える。

駐車場情報&500円硬貨を忘れずに
無料駐車場あり(乗用車50台、大型バス2台)。胎内拝観料は大人500円。お賽銭はセルフ式なので、500円玉+100円玉×2を用意するとスムーズ。

“おくり仏ルート”で渋滞回避
帰りは往路と同じ道へ。写真整理をしているうちに、仙台駅西口にスッと戻れる。


雨×白衣の映える瞬間――“しっとり観音”の楽しみ方

晴天時の中山大観音は、威圧感がストレートに刺さってくる。しかし、小雨の日は一転して、幻想的なヒロインに変貌する。

“霧ファンタ”発生タイム
梅雨期(6〜7月)の午前10時〜正午、観音像が半分だけ霧に包まれる《胴体ロスト》現象が発生。静かな時間に、静かな場所で出会う奇跡の瞬間。

傘より“レインポンチョ”
強風の丘の上では、レインポンチョ+両手スマホが最適。濡れた像は露出オーバーになりやすいため、明るさ調整がポイント。

夜の“赤点滅ホラー”
航空障害灯の赤い点滅が霧に反射し、ホラー映画のような雰囲気に。秋〜初冬には期間限定のホワイトライトアップも。

雨宿り108ショット
胎内12フロアに並ぶ108体の仏像をすべてスマホに収めると「煩悩1データ=1クリア」の自己満。雨音が響く階段では、ソルフェジオ周波数のような癒しの梵音も楽しめる。


観音は語らずとも、物語を見守っている

小雨の中、ワイパーに合わせて白衣観音を見上げる――ただそれだけで、タクシーメーターが刻むのは「距離」ではなく「物語」になる。

「仙台の雨、悪くないでしょ?」

さあ、次は――ラスボスの裏側、覗きに行きますか。

雨粒が止むころ、観音様はまた無表情で立ち続ける。でも私は知っている。その静けさの奥で、世界中の“いいね!”が今日も少しずつ積み上がっていることを。


おまけ:カメラ好きの“私的ベストアングル”

撮影ポジション狙いどころプチコツ
胎内展望窓(東面)霧に溶ける蔵王連峰+市街地の水墨画レンズを窓に密着させて、自分の映り込みを防ぐ
駐車場脇・水たまりリフレクション“逆さ観音”スマホを水面スレスレに寝かせ、画面を上向きに
車窓の間欠ワイパー越し雨粒ボケ+像の輪郭=映画的0.5〜1秒のライブ写真でワイパーの軌道を写し込む

📸**“観光地”ではなく、“物語地”へ。**
雨の仙台、中山大観音はきっと、あなたの旅にひとつの記憶を刻んでくれるはずです。


プロフィール
書いた人
はたもん

こんにちは。仙台で個人タクシーを営んでいます。
「少しの間だけ」のつもりでしたが、気づけばこの道一筋のタクシー歴33年です。平凡な私でも33年の間にはいろんなことが起きました。
このブログでは、そんなタクシードライバー目線の仙台をお届けします。
仕事の体験談や趣味の山歩き・スキー・写真撮影についてもゆるっと綴ってまいります。どうぞよろしくお願いします。

フォローする
観光
シェアする
タイトルとURLをコピーしました